第一回『過去』
イベント記録
2021年1月17日
ある日、黒熊亭に一通の手紙が届いた。
手紙にはこう書かれていた。
「黒熊亭主人Gren氏へ
初めまして
私はレナータと共に暮らしているニコラと言います。
先日、レナータが久しぶりに家に戻ってまいりました。
長期の休みをもらったの、と彼女は喜んでおり、ゆったりとした時間を過ごしていましたが数日前から突然家に戻らなくなりました。
もしかしてお店の方に戻られたのでしょうか?
もしそうであればレナータに私の方へ手紙を送るようにお伝えいただければ幸いです。
ニコラ・イスタード」
その手紙を読んだグレンは、黒熊亭をちょうど訪れていた冒険者たちに、このことを伝えた。
レナータの実家をグレンは聞いていたようだが、どうやら酒を飲んでいた時に聞いたようではっきりとその場所を覚えていなかった。
うっすらと覚えているのは「祈りをささげるような場所の近く」ということだけだった。
はっきりしない情報に落胆しながら冒険者たちはニコラという女性から話を聞くため、黒熊亭を後にし、ばらばらに各地へ散らばった。
数分後、リリーが献身の神殿の近くでニコラの家らしきものを見つけ、他の冒険者たちに連絡を取り、彼らは家のドアをノックした。
冒険者たちを迎えたニコラはレナータが黒熊亭に戻っていないことを聞き、落胆した表情をした後、彼女がいなくなったときのことを話し始めた。
今から3か月ほど前、レナータは長期の休みを貰ったと言って、ニコラの家に帰ってきた。いつもと変わりのないレナータだったが、徐々に元気がなくなり、言葉数が減り、ぼうっとしていることが増えて来ていたようだ。そしてある日、彼女は姿を消し、それから家に戻ってきていないという。
ニコラはそんなレナータが昔のレナータに似ているといい、昔話を始めた。
レナータがまだ幼かったころ、彼女の両親は病でこの世を去り、運よく命を取り留めた彼女だけがニコラの下に引き取られた。両親を失ったことが彼女にとっては大きなショックだったのだろう。彼女が家に来たときはなにも喋らず、人形のように表情一つ変えることがなかった。そして彼女は1日中、家から出ずに2階の窓から外を眺めていた。
そんな日が1年程過ぎた頃、ある夜ニコラが仕事から戻ってくると家の中にレナータの姿が無かった。彼女を探し、家の周りの森の中を探した彼女は、家の近くにある神殿の前に立っているレナータを見つけた。月明かりの下、レナータはニコラの方を振り向き、笑顔でこう言った。
「もう大丈夫。心配ないよ、おばさん」と。
レナータに何があったのか、ニコラは聞いてみたが彼女は何も言ってくれなかった。
ただレナータが元気になればそれで良いとニコラは笑って話していた。
成長したレナータはユーのベアリーインという宿屋の厨房で働いていた。そんな中、彼女は偶然、ユーの森の中にある黒熊亭という酒場により、貼ってあったチラシを見て働き始めた。
あまり聞かない名前の酒場で大丈夫かと心配していたニコラだったが楽しくやっているという便りを聞いて安心はしていたようだ。
レナータの昔の話をした後、ニコラは窓の外を見て、冒険者たちに言った。
「ああ、もうそろそろ暗くなるね。あなたたちも今日はもう帰りなさい。」
そうして冒険者たちはニコラの家を後にした。
(続く)
- 最終更新:2021-01-23 22:10:28